ライフワークの一環として、TOMAS TROWARD(トマス・トロワード)の文献も継続的に研究しています。
トロワードは、ニューソート運動に大きな影響を与えたイギリスの思想家で、引き寄せの法則で有名なジュヌビエーブ・ベーレン女史のお師匠に当たる方です。
そういう意味では引き寄せの法則や原因と結果の法則の最深奥の源流と言える方でしょう。
イギリス生まれでインドで判事もしていたと聞きます。
この方は、エジンバラ講義で「極端な理想主義は『内側』だけ、唯物主義は『外側』だけを重視している。両方の統合が必要である」(第1章)と説いてもいます。
私(の主観)から言わせると耳が痛いです。
10代後半~20代前半頃の私に、このトロワードのコメントを聞かせてあげたい。
唯心的で宙に浮いたようになってたので。_| ̄|○
トロワードは、亡くなられて100年以上経ちます。
ですが、その当時流行していた「精神か物質か」「理想か現実か」といった二元論的対立ではなく、両者を架橋する視点が重要だということを100年以上前に先見の明で洞察しています。
そういう指摘をしている時点で、( 引き寄せ云々は別にして )掘り下げて研究する価値があると考えました。
今回、文献研究、解析の一環として「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という仕組みを取り入れたトマス・トロワードの著書の専用チャットボットを自作し、一定の成果を得られたのでご報告します。
どんなものかというと、下記のような「特化型チャットボット」です。
デモ動画
このチャットボットは、トマス・トロワードの「エジンバラ講義」をベースにしており、ローカル環境(自分のPCのローカルホスト)で動作します。
また、GPT-4o以外のモデルも実装可能です。例えばOPEN ROUTERなど、OpenAI互換APIが利用できる最新AIモデル( freeモデル含む )にも柔軟に切り替えられます。
要するに、OpenAIのAPIだけでなく、無料で使えるAPIも活用できる汎用性を持っています。
システム自体はシンプル。ただし精度がカギ
画面を見る限り「普通のチャットボット?」と思うかもしれません。
実際、仕組み自体はそこまで複雑ではありません。ChatGPTなどに的確な質問及び依頼をしVibe Codingで調整しながら作ることができます。よって非エンジニアであってもAIの進化の恩恵で敷居が下がっているのでベース部分は独学でも学んでスキルを高めていけば実装はできると思います。
( とは言え、こういうのですらアプリ開発を外注したら数十万円はくだらないのだとか )
一番のポイントは「回答精度」。
モデルが文献に沿った正確な回答を返せるよう、データセットの作成段階から試行錯誤を重ねました。
この部分こそが苦心した点です。
なぜ作ったのか?
自分用の学習・研究支援が目的です。
トロワードの著作は非常に内容が濃く、しかも難解で有名です。
ネイティブの英語話者でも途中で挫折する方が多いと聞きます。
そんな専門書ですから、日本人である私( この記事の執筆者 )が原著を正確に読み解くのは、さらにハードルが高いわけです。
見てのとおり、内容もかなり高度です。
AI時代の恩恵
ここで、現代のAI――たとえばChatGPTやGeminiなどの登場が「時代の恩恵」となりました。
開発の流れとしては、まず「RAG構成」の最小限のアプリを作成。
動作確認できた段階で、どの部分が精度に効いてくるのか、AIに質問を重ねつつコードや設計を改良しました。
この時、先にも言及したように自然言語でAIに指示してコードを作らせ、自分はテストと調整に集中――いわゆる「Vibe Coding」という手法をとりました。
(ちなみに私も非エンジニアです)
ナレッジベース構築で精度アップ
手を動かしながら検証した結果、「どんなナレッジセット(質問と回答のペア)を参照させるか」が最も重要と判明。
そこで、トロワードの原著( ←これは、プロジェクト・グーテンベルクのデータベースの文献を参照しています )をAIで翻訳させつつ、「この表現の意味は?」「なぜこう訳せる?」といった疑問もリアルタイムでAIにぶつけて解消。
AIなら、私の知識レベルや関心に合わせて、例え話や背景情報を補いながら丁寧に説明してくれます。
こうして、パブリックドメインの英語テキストからLLM(大規模言語モデル)が正しく参照できる質問応答セットを構築。
具体的には、以下のような構造化されたJSON形式でナレッジベース化しました。
[
(略)
{
"No.": 104,
"question": "なぜ普遍的精神は全てに即座に応答できるのですか?",
"answer": "普遍的精神は個人的欲求を持たず、すべての存在の根本であるため、私たちの認識に対し即座に反応します。",
"Intent": "Q&A",
"BookTitle": "The Edinburgh Lectures on Mental Science",
"Author": "T. Troward",
"Chapter": "7. RECEPTIVITY",
"Category": "哲学的考察"
},
{
"No.": 105,
"question": "個の知性はどのようにして普遍的知性と一体化しますか?",
"answer": "私たちが普遍的精神の本質と自分の関係を深く認識することで、個の知性は普遍的知性と一体化します。",
"Intent": "Q&A",
"BookTitle": "The Edinburgh Lectures on Mental Science",
"Author": "T. Troward",
"Chapter": "7. RECEPTIVITY",
"Category": "専門理論"
},
{
"No.": 106,
"question": "知識と法則への理解はどのように苦しみからの解放をもたらしますか?",
"answer": "自然法則を理解し、それに従うことで、無知からくる苦しみを克服し、自由に生きられるようになります。",
"Intent": "Q&A",
"BookTitle": "The Edinburgh Lectures on Mental Science",
"Author": "T. Troward",
"Chapter": "7. RECEPTIVITY",
"Category": "応用"
},
{
"No.": 107,
"question": "この章の内容は現代社会にどのような意味がありますか?",
"answer": "普遍的精神と法則の理解は、個人の成長や社会の調和に役立ち、現代にも通じる普遍的な指針となります。",
"Intent": "Q&A",
"BookTitle": "The Edinburgh Lectures on Mental Science",
"Author": "T. Troward",
"Chapter": "7. RECEPTIVITY",
"Category": "現代的意義"
},
{
"No.": 108,
"question": "普遍的精神を認識しなければ、何も変わらないのですか?",
"answer": "普遍的精神は常に存在しますが、私たちがそれを認識しない限り、その力を意識的に使うことはできません。",
"Intent": "Q&A",
"BookTitle": "The Edinburgh Lectures on Mental Science",
"Author": "T. Troward",
"Chapter": "7. RECEPTIVITY",
"Category": "誤解"
}
( 以下略 )
]
また、「誤解」「現代的意義」等のカテゴリも加え、トロワード独自の定義と一般的なスピリチュアル解釈の違いも明確化。
誤解、応用等のタグ付けの自動化にプロンプトチェイニング的アプローチをしています。
これにより、より質の高いナレッジセットとなりました。
AI学習セットを作るメリット
このような応答セットをAIが参照することで、難解な原著でも、誤読や解釈ミスのリスクを減らしつつ、
ユーザー(自分含む)は専門的な知識がなくても安心して、いくらでも納得いくまで質問できるチャットボットになりました。
AIにとっても、既に整理された情報を参照するため、ハルシネーション(事実誤認による回答)も起こしにくくなります。
つまり「独学では壁にぶつかるような難しい本も、誤読を避ける構造化されたナレッジをAIに与え参照させることで、
AIがやさしくナビゲートしてくれる」――そんな環境が作れます。
ここで、簡単に今回のアプリのフォルダおよびファイル構成を紹介しておきます。
以下のようなものです。
フォルダ・ファイル構成(例)
やや専門的なのですが、簡単に解説してみます。
フォルダやファイルには、それぞれ役割があります。
dataやvectorstore:AIが参照するための知識や情報が入っています。
promptやtools、src:AIが動くための仕組みや道具がここに入っています。
venv:プログラムを動かすための専用の仮想環境です。
.envやrequirements:アプリを動かすのに必要な情報や設定を書いています。
main1やcreate_vectorstore:アプリの本体や、AIが知識を使いやすい形に整理するためのプログラムです。
Streamlitを使うことで、**「難しい本も、AIがやさしく答えてくれる」**便利なチャットボットとして仕上げることができました。
かつては独学で苦労していた( 手が届かなかった )難解な思想書も、AIのサポートで「一人で読んでいるのではない」安心感が得られています。
これこそ、現代AI技術が学びにもたらす大きな恩恵だと実感しています。
補足・用語解説
RAG(Retrieval-Augmented Generation):
検索(情報取得)と生成AI(ChatGPTなど)を組み合わせて、より正確な回答を得る仕組み。
ナレッジベース:
AIが参照するための知識データベース。
ハルシネーション:
AIが事実でない内容を自信満々に生成してしまう現象。
Vibe Coding:
自然言語でAIに指示し、雰囲気(Vibe)でコーディングを進める新しいスタイル。
プロンプト・チェイニング:
複数のプロンプト(質問や指示)を段階的につなげてAIを活用する手法。一度のやりとりで終わらず、回答をもとに追加の質問や分析を行うことで、より深い知識抽出や複雑なタスク遂行が可能になります。
PS
GPTsで作成したトマス・トロワード エジンバラ講義専門チャットボット
これらのアプリを自作せず、要件定義して仮にエンジニアさんに外注していたら
「 メンテ費なども入れたら数十万円はくだらなかっただろう 」。というのがGeminiやChatGPTの見解でした。
今回自作したアプリは、パイプライン構築が、すでにできていて他への転用( 技術資料、会社マニュアル等 )も可能です。
私にとって引き寄せの磁力を強める決定的な条件なども整理できて実際に研究用に役立ったことは間違いありません。
とは言え、このままでは、ローカル運用という形に止まってしまい、これをご覧のサイト読者に何等の恩恵ももたらしません。
ですので、このアプリの各コードを疑似的に再現したものをOPEN AIのGPTsで自前開発しました。
ある程度までは、再現できているはずです。
以下の構成でGPTsで作製しています。
以下のリンクを知っていれば、知っている方限定で使用できるはずです。
※今のとこ無料で公開できていますが、OPEN AIのシステムや料金体系が変われば有料になることもあり得るので、
関心のある方は今のうちに質問をしまくって使いまわすだけ使うとよいと思います。
私が自前アプリで、いろいろ質問しまくって研究した範囲の体験では、トロワードの著書を原書で研究することで天風哲人の実践体系や暗示法が、なぜ優れた効力を発揮するのか?再整理できましたから。
ちなみに、冒頭に紹介した「 引き寄せの法則 」で有名なジュヌビエーブ・ベーレン女史は、今回アップしたエジンバラ講義を殆ど理解できず挫折しています。
そこで、師(トロワード)に直接会って、学ばねば無理だと感じ、彼に会うための資金をドア講義の一節をひたすら念じて執念で2万ドル( 現在の貨幣価値では億単位 )調達。
しかし渡航費や長期滞在費が調達できても、トロワードから個人レッスンを受けるには、それ以外にも様々な試験があったとか。
( トロワードは、幾度もやんわり断ったのだとか )
その試験も執念と直感に導かれてパスした。
そうして念願かなってニューヨークからイギリスのコンウォールに渡航しています。
その後、ベーレン女史はトロワードの自宅のすぐそばの宿を借りて滞在しました。
1912年から1914年までの約2年間、トロワードが亡くなる数年前に師事し、個人指導を受けました。
( 唯一の弟子だったそうです )
毎日、徒歩でトロワードの家に通い、個人指導を受けていたと自身の著書や講演で述べています。